「ベニスに死す」のオマージュでしょうか
バイセクシュアルとかLGBTとか、一括りにするのはもちろん乱暴だとは思いながら、誤解を恐れず言うと(もし不愉快に感じられたらごめんなさい)、私の好きな映画にはバイセクシャルの人物が登場するものが多い。
ロッキーホラーショウ、ヘドウィグとアングリーインチ、プリシラ、キンキーブーツ。
そのファッション性、感情の豊さ、人間関係の複雑さなどが丁寧に表現される時、映画に重厚さや深みが出て、その上にさらっと蛍光色のオーガンジーを纏ったようなポップさが出る。
喜びと悲しみ、美しさと滑稽さ、残酷さと優しさなど、本当にあらゆる要素が万華鏡の中に捉えられたビーズのようにきらきら光る映画が多い。 私が共通して受け取るメッセージとしては、ものすごく単純化してしまうと、『世の中辛いことも悲しいことも多いけど、泣いてばかりもいられないから、笑っておこう』。
本作はその例に漏れず、しかも日本の家族事情や社会の問題にも光があたる。
老後、身の寄せ場のないバイセクシュアルの人達のための老人ホームが舞台だ。
ただ私がDVD盤を買うほどこの映画が好きなのは、何度観ても飽きないほど、ひたすら、画が美しいという一点。 敬愛する故ルキノ・ヴィスコンティ監督にもみていただきたかった程。
画面全体が海辺にあるホームを想起させる静かな淡いブルーで、上品なアーリーアメリカン調のインテリア。優雅な花のプリントが施されたガウンに身を包んだヒミコ(田中泯)の固い意志と死の病、不安に揺さぶられる恋人の春彦(オダギリジョー)の若い横顔で潮風に揺れる前髪。丁寧に季節の行事を行いながら肩を寄せるように生きる老人達は、化け物を見たかのようにバタンを扉を閉めてしまう隣人のお婆さんにさえ、どこか優しい眼差しを向ける。彼らのファッションと同じように、ヒミコの娘(柴崎コウ)に向ける優しさも、茶目っ気と愛に溢れている。
田中泯はバイセクシュアルを演じても武士を演じても、“真実を見てしまった人“の運命を貫くような、近寄り難い高貴さを感じさせる。